6.音程の調節


 今回は、管楽器奏者なら必ず身に付けておかなければならない、音程の調節の話です。音程の調節と言ってもチューニングの話ではありませんので注意して下さい。

 難しい話を少なくする為に理由は省きますが、管楽器では楽器の構造上ピアノの様な音程(平均律)を正確に作る事は現実問題として不可能です。もっとも、状況々々で音程を自由に操る事で、様々な音楽的表現が出来る楽器の一つが管楽器であるとも言えます。ですから、管楽器の音程を平均律(ピアノの様な音程)で固定して演奏しようとする事事態が無意味なのです。吹奏楽等で音程が悪いとチューナーを取り出し、チューナーを見ながら「高い」「低い」等と言っている場面をよく見かけますが、チューナーは平均律(ピアノの様な音程)に合わせて調節してあり、それを目安に音程を合わせると言うのはあまり意味が無い事です。

 管楽器奏者は音程を合わせたり音楽的表現をする為にも絶えず音程を調節する必要があり、その為の技術を身に付ける必要があります。今回はその為の話です。

 管楽器は名前の通り管(パイプ)で出来ています。管を長くすれば音は低くなり、管を短くすれば音は高くなります。最も解り易い構造を持った楽器がトロンボーンです。金管楽器はピストン、スライド、バルブ等で管の長さを直接変化させて音の高さを変えます。木管楽器は管そのものの長さは変わりませんが、そこに開けられた穴を空けたり閉じたりすることで、実質的な長さを変化させて音の高さを変えます。余談ですが、最近では木管楽器、金管楽器の区別は楽器の構造で行います。生まれた時から金属のサックスが木管楽器に分類されるのはこの為です。

 この音程の微調整を行うのがチューニングです。しかし、最近の楽器(これからはクラリネットとサックスについてお話します。)はとても大変良くなっていますし、基準のピッチ(A=442Hz等と表現します。)も統一されてきていますので、今ではチューニングによる楽器の調整は殆ど必要ありません。標準のマウスピースやリードを使い、普通に演奏するのであれば、標準の状態(説明書に記載されていると思います。)で全く問題なく演奏出来ます。良く、「私は音が高いので低めに(管を長くなるように)チューニングしています。」とかその反対の事を言う人がいますが、楽器の音程は物理的に決まっています。吹く人によって音の高さが変わると言う事はありません。標準の状態で音が合わない場合は吹き方に問題がある筈です。チューニングでごまかして演奏するのでは無く、奏法を改めるべきです。

 しかし、実際には同じ楽器でも音が高くなる人と低くなる人が存在します。私の生徒さんでも、いつも力任せで吹いていた人をダブルリップ・アンブシュアを使って矯正をし、力が抜けるようになると、殆どの人の場合音が低く(ひどい場合は半音くらい)なります。これには口の中の容積が関係していると思います。私の経験では音の高さは楽器の長さだけでは無く、口の中も含めた容積によって決まる様です。つまり、音が低くなる人は口の中の容積が広く、高くなる人は口の中の容積が狭いと言う訳です。力任せにマウスピースを噛み付くように吹く人の多くは口の中の容積が狭くなっている筈です。それを矯正してリラックスさせると一気に口の中の容積が広がります。それで、音が低くなる訳です。

 これも良く聞く事ですが、音が低いと「もっと噛め。」と言ったり、音が高いと「口を緩めろ。」等と言う人がいます。直接リードが触れる唇の力を変えると、楽器の音色が変わってしまいます。少なくとも「噛め。」「緩めろ。」と言う指示は音程の調節ではすべきではありません。特に、「噛め。」と言う指示は唇を保護する為にも、良い音色を作る為にも、してはいけない指示の一つです。しかし、先生と呼ばれる人達の中にも同様の間違いをしている人が多いのがとても残念です。

 では、どのようにして口の中の容積を変えるのでしょうか? それは、舌を使います。練習としてはまず、舌の先を下の歯の裏に付けてみて下さい。次に、舌の先が下の歯の裏から離れないように気を付けながら、舌の中央部分を上げたり下げたりする練習をします。舌の中央部分が上顎に付くくらい迄上がれば文句ありません。出来ない人は根気良く(努力と根気は私の辞書には載って無い筈なのですが・・・。)練習してみて下さい。これが出来るようになったら、ロング・トーンをしながら舌を上げたり下げたりしてみます。上手く行くと面白いくらい音程が変わるはずです。半音くらい変わればOKです。練習の時は舌の先は下の歯の裏に付けたままにして下さい。しかし、このままではタンギングができない(舌の中央部分でするタンギングもありますので、興味がある方は一緒に練習してみて下さい。)ので、実際に演奏する場合ははずして下さい。

 舌の位置を変えて口の中の容積を変えて音程を変えると言っても、それに関連して実際には顎、喉、唇等が微妙に動く筈です。意識的に動かしている訳でなければ、あまり気にしないで下さい。また、練習ではできるのに、ロング・トーンをすると舌が動かなくなる人がいます。この原因の多くは力の入れ過ぎです。前章をみてアンブシュアの矯正をしてみて下さい。

 これが出来るようになれば半音くらいは音色を変えずに調節出来るようになります。チューニングは標準の状態で十分だと思いませんか?しかし、この技術を生かす為には「音が合っている。」と言う事が解る音感が必要です。チューニングに1時間も2時間もかけているのであれば、その時間を音感を身に付ける為に使っては如何でしょうか?

 音感を身に付けるだけなら、楽器も必要ありません。歌うだけだって良いのです。音感を付ける練習が解らない人は、カラオケに行きましょう。カラオケだって真剣に練習すれば音感を身に付ける為に大いに役に立ちます。仲間と「そこは高い方が良いんじゃない?」等と言いながら練習しても良いですし、自分の歌を録音して時間をおいてから客観的に聴いてみても構いません。色々試してみて下さい。